こんにちは、若林浩太郎です。
この記事を読んでくださっている皆さんの中で道路を利用したことが無い人はいらっしゃいますか?
愚問でしたね。道路を使わずに生活する人はこの国にはおそらく1人もいないでしょう。
それほどに道路というものは、私たちの生活に必要不可欠なものということです。
この国には隅々まで道路が敷かれていますよね。
道路を血管に例えるならば、大量の自動車を捌くことができる幹線道路や高速道路は、まさしくこの国の大動脈・大静脈と言える存在です。
しかし、道路のなかには私たちの住居に隣接している小さな道路もありますよね。
毛細血管のように、国中に張り巡らされているこれらの道路の中には、自動車の交通よりも歩行者の安全に目を向けた設計となっているものが登場し始めています。
このような、自動車の通行を敢えて阻害し、平均スピードを落とすことによって歩行者の安全を図る設計のことをトラフィックカーミングと言い、住みよい街の環境を作り上げるための工夫として近年注目を集めています。
建築の現場では専門家でも難しいと言われる道路の規制について、
本日はトラフィックカーミングとはどういうものなのかをご紹介いたします。
Contents
住みよい街を作るには?
住みよい街とはどんなものでしょうか?いろいろなことが考えられます。
例えば、景観を整えること。
人は無意識のうちに周囲の環境から影響を受けているものです。
景観を整えることによって、住民はストレスのない生活を送ることができることでしょう。
他には、安全な街を作るということも考えられます。
一般的に私たちにとって一番身近な危険とは自動車の存在です。
極端なことを言えば、自動車を1台も街に入れない、つまり交通量が0ならば交通事故も起きません。
さすがに交通量0は無理でも、交通量を減らすために様々なことが考えられてきました。
例えば、一方通行が代表例として挙げられる他、行き止まりを作るということなどが考えられています。
行き止まりを作るとその地域に住む人しか道路を使わなくなり、通過交通を抑制する効果がある効果があるとされています。
(地理院地図で作成)
例えばこちらの道路は神奈川県横浜市たまプラーザ周辺の地図なのですが、中々に独特な形の道路ですよね。このように先端を円形とした袋小路はクルドサックと呼ばれるもので、大規模な宅地開発の際に取り入れられることがあります。
自動車の速度を落とすには?
交通量を減らす他にも歩行者の安全のためにできることはあります。
通行する自動車の速度を落とせばよいのです。
トラフィックカーミングとは道路を走行する自動車の速度を落とすことによって、歩行者の安全を図る道路の構造のことです。
(Traffic Calming➡︎Traffic:交通+Calming:沈静化)
欧米で提唱され始めた道路設計のコンセプトで、近年日本もこれを意識した道路が作られ始めています。
では、どのようなことをすれば自動車の速度を落とせるのでしょうか?
①法律で規制する
自動車は私たちの生活を支える非常に便利な道具です。
最も簡単に実行できるのが法律によってその道路の最高速度を規制する事です。
皆さんご存じの通り、日本の道路は法定速度と規制速度によって最高速度が規制されています。
法定速度とは、速度規制が無い道路を走る際の最高速度の事です。
一般道を走る自動車の場合60km/hが法定速度と定められており、速度制限の標識が無い一般道では60km/hで走ることが許されています。
ただし、全ての道路で自動車が60km/hで走っていたら危ないので、各道路の事情を考慮し、規制速度を設定して最高速度を制限しています。
特に住宅地や学校の近くを通る生活道路は30km/や20km/hに規制されており、歩行者にとって安全な道路を目指しています。
しかし、実際には速度制限を無視して走行する自動車が後を立たず、その実効性は限定的と言えるのかもしれません。
②意図的にカーブを作る
法律で自動車の速度を落とすことが難しいならば、道路そのものの設計で対策すれば良いのです。
自動車の速度を落とすための設計としてまず例に上がるのが、道路にカーブを作ることです。
下の画像は埼玉県北部の熊谷駅近くの地図です。
赤い点線で囲まれた道路がくねくねと波打っているのがわかりますね。
(地理院地図で作成)
カーブを作ると、カーブを曲がるための余計なハンドル操作や、ぶつかってはいけないという緊張感が生まれるため自然と自動車の速度が落ちるのです。
例えば左右交互にカーブさせたスラローム状の道路や、直角の道路を連続させたクランクが各地に見られます。
(クランクは古くは城の防衛にも大きな役割を果たしました。直角の道路を連続させたり、行き止まりを作ったりすることによって敵軍の侵攻を遅らせる効果があったとされています。そのため城下町が原型となっている街の道路はその名残が見られるのが特徴的です。)
③道を凸凹させる
明治から昭和にかけ、自動車の利用が増えるにつれて多くの舗装道路が誕生しまし、泥濘の都と言われた東京は近代的な舗装道路が整備された都市に変わっていきました。
(泥濘:でいねい・ぬかるみ ぬかるみの事です。)
自動車が速度を出して走行できるのは道路がアスファルトによって舗装され、平らで走りやすい道が整備されているからです。
そこで、道路に凹凸を意図的に作ることによって、自動車の走行速度を落とす方法が考えられました。
道路そのものに凹凸をつけたり、道路上にパンプ(ゴムやプラスチック製の凹凸)を設置することで実現しています。
また路上にペイントを施して、凹凸があるかのように錯覚させる手法もとられており、このようなものをイメージパンプと呼びます。
歩行者が歩きたくなる道路を作る
ここまで、交通量の抑制によって歩行者の安全を図るということをお伝えしてきましたが、逆に、歩行者数を増やし安全を保つという方法も考えられています。
どういうことかというと、例えば駅前の繁華街の多くの歩行者がいる道路において事故起きないのはなぜでしょうか?
それは歩行者の存在によって運転者が危険を感じ徐行するからです。
例えば街路樹は、景観を整える効果を持ち、街路樹によって生みだされた景観は歩行者数を増加させます。
人手を増やすことによって治安も良くなるなど、多くのプラスの効果が期待できます。
上のマップは、西武池袋線の富士見台駅からシエスタヴィラ上鷺宮までの道にある街路樹アカシア通りです。
歩行者が歩きやすいように配慮されており、ちょっとした散歩にもぴったりです。
世の中知らないものだらけです・・
自動車の速度を落とすために道路をクネクネ(スラローム)にしたり、カクカク(クランク)にしたり、デコボコ(パンプ)にしたりと様々な工夫がされているんですね。
一昔前、Twitter上である写真に写っている物の名称を、知っている人がそれぞれ書き込んでいくという事が流行したことがありました。
ふとした光景の中にも全く知らなかった物がある事に感動したことをよおく覚えています。
普段何気なく使っているものこそ、よく調べてみると非常に奥深いものなのでは無いでしょうか?
趣味くらいの気持ちで気にしてみるのも面白いかもしれませんね。
何気ない街の様子を集めたまちあるきの記事はこちらです
- この記事を書いた人
- 若林 浩太郎