2020年施行の民法改正で、設備の不具合が起きた場合は賃料の減額が必要になりました。
そこで、国土交通省や公益財団法人日本賃貸住宅管理協会により賃料減額の考え方やガイドラインが作成されました。
ガイドラインには「エアコンが使えない時と雨漏りが起きた時では、いくら減額するか異なる」など具体的に記載されています。
減額が必要といえど、全ての設備不良のケースで減額されるわけではありません。
賃料減額をめぐってオーナー様と入居者様でトラブルにならないために、お互いが気をつけておきたいことがあります。
それが下の3つ。
- ガイドラインが示す賃料減額割合
- 減額するか否かを決めるポイント
- トラブルを避けるためにできること
目次
設備の不具合による賃料減額を定めた法律について
2020年4月1日施行の改正民法第611条で、設備不良時の賃料減額が定められました。
(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第六百十一条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
入居者が原因でない場合に設備を使えなくなった時、法改正前は賃料の減額を「請求できる」としていました。
ところが、改正によって減額が前提となりました。
「賃貸物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益することができなくなった場合」とは以下のように解釈されます。
- 物件の破損・設備の不具合で物件の一部を使用できない
- 使用できない程度が一般的に容認できる限度を超え、通常の生活ができない
上記に該当すれば、賃料から使用できない割合相当の減額があります。
ただし、オーナー様と入居者の協議で、減額の代わりに代替品の提供なども認められます。
減額割合の参考になるガイドラインについて
改正民法第611条への対応として、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会は「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を作成しました。
作成の背景は、民法には減額基準が示されていないことです。
※ガイドライン通りの対応は必須ではありません。対応を決める時の参考にご活用ください。
以下がトラブル例・減額割合・免責期間です。
A群 | ||
---|---|---|
状況 | 減額割合 | 免責期間 |
電気が使えない | 40% | 2日 |
ガスが使えない | 10% | 3日 |
水が使えない | 30% | 2日 |
B群 | ||
状況 | 減額割合 | 免責期間 |
トイレが使えない | 20% | 1日 |
風呂が使えない | 10% | 3日 |
テレビなどの通信機器が使えない | 10% | 3日 |
住むのに支障をきたす雨漏り | 5~50% | 7日 |
エアコンが動かない | 5,000円/月 | 3日 |
参考 : https://www.jpm.jp/pdf/gengakuguide2.3.19.pdf
設備不良が起きたら、A群に該当するか確認します。
該当しなければB群で計算します。
代替品の用意などにかかる期間を免責期間とし、減額期間に含めずに計算します。
いくら減額するかは日割り計算です。
計算方法は以下の例をご参照ください。
9万×20%×(3日-1日)/30日=1,200円
ガイドラインの注意点
- 入居者様が原因の不具合は対象外
- 自然災害などオーナー様・入居者様ともに原因でない場合も賃料減額の対象(電気・ガス・水道などの供給元が原因の場合を除く)
- 賃貸借契約が終了となるため、全壊の場合は対象外
賃料減額などの対応を決めるポイント
- 使用できない期間、程度、面積
- 代替品・手段の提供
使用に支障をきたせばすぐに日常生活に影響があると判断されるわけではありません。
賃料減額の期間とは、一般的に容認できる限度を超えて通常の生活ができなくなってから修繕完了までです。
「不便だが使える」程度では減額対象と見なされません。
これまでの判例を見ると「使用できない程度が日常生活を送れないほど」と判断されるか否かが減額のポイントです。
すきま風が入らない程度の窓の破損など、不便を感じるものの日常生活が妨げられない程度のものは原則、減額対象外です。
使用できない面積が明らかなら、面積按分で減額賃料を求める方法もあります。
※設備の不具合で賃料減額を求めた裁判でも面積按分に基づく判例があります。
減額分の計算など、オーナー様にも入居者様にも負担が大きすぎる場合、代替品・手段の対応も可能です。
代替品で対応する場合、「不便だが日常生活を送れる」レベルにすることまでが求められます。
代わりの手段として、賃料減額分相当の金銭の支払いなどが挙げられます。
老朽化を理由にすでに家賃を下げている場合もあります。
入居者様が承知の上で契約していてオーナー様の負担が大きすぎるなら、減額できない例もあります。
トラブルのリスクを減らすためにオーナー様・入居者様が気をつけたいこと
オーナー様・管理会社が気をつけること | 入居者が気をつけること |
---|---|
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|
※オーナー様・入居者様ともに判断に不安があれば、法律の専門家への相談をおすすめします。
弁護士会・司法書士会・行政書士会が無料相談に応じてくれることも。
オーナー様・管理会社が気をつけること
不具合の原因を突き止めるために、すぐに状況確認することが大切です。
入居者様が原因の場合を除き、入居者様から直してほしいとお願いされたらオーナー様に修繕の義務があります。
日常生活を送れないほどの状態なら、賃料減額などの措置をとるのが原則です。
丁寧に対応しましょう。
住宅設備も経年と共に入居後に不具合が起こるリスクは高まります。
メンテナンス・修理・交換時期を把握しておくと、不具合が起きる前に対処できます。
修繕を怠ったために入居者様が不利益を被った場合、賠償責任を負うことになるかもしれません。(民法第606条第1項と第415条第1項)
▼関連記事:入居前にお部屋の状況を確認することは、原状回復工事の費用負担のトラブルを避けるのにも役立ちます
入居者様が気をつけること
予測できない設備の不具合も起こりえます。
トラブルに備え、入居者様は入居時の物件の状況確認と、写真などで記録してご自身が原因でないと証明できると安心です。
※オーナー様の修繕義務は、入居時の状態までです。入居時以上の状態にすることが保証されるわけではありません。
通知が遅れてオーナー側の不利益となることが起きたら賠償責任を負うことになるかもしれません(民法第415条第1項)
対応は話し合いで決まることがほとんどです。
しかし、入居者・オーナー双方が納得できないと訴訟になるケースも。
直してほしい箇所・話し合いのやりとりの記録は、訴訟の際に重要な資料となります。
「賃料減額が基本」であることを理由に賃料を支払わないと、契約解除や訴訟を起こされてもおかしくありません。
敗訴すれば退去や未払い分(場合によっては利子・違約金も)の支払いなどが想定されます。
長い目で見ると不具合には迅速な対処が得!
設備の自然故障などは賃料減額の対象です。
物件の価値を保つためにメンテナンスや大規模修繕は欠かせないと分かっていても、支出を減らすために本当はやりたくないと思っている方は少なくありません。
しかし、少しでも不具合がおきる前に対処しておくと、大規模修繕の費用を抑えたり、賃料減額、トラブルを避けられる可能性が高まります。
メンテナンスも賃貸経営をしていく上では侮れません。
賃料を減額してもらえると言っても、2・3日でも設備を使えないとなると入居者様は良い気分はしません。
当社は入居者様の困りごとに迅速な対応を心がけています。
- この記事を書いた人
- 星脇 まなみ
- 2016年からフリーランスでライターとして活動しています。 主に住まい・暮らし・生活に関する記事を制作してきました。 住みやすい街や今後熱くなりそうな街や都市開発、資産運用への関心が強いです。 住宅設備で1番好きなのはトイレ。外出先でもメーカーやデザイン、使い勝手が気になってしまいます。
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