「耐火建築物」や「準耐火建築物」という単語をご存知でしょうか。
その名の通り耐火構造を取り入れて建てられた建築物のことを指す言葉ですが、具体的な特徴や両者の違いについてご存知の方は多くないかと思います。
そこで今回は、「耐火建築物」と「準耐火建築物」の特徴について詳しく解説していきます。
耐火性が心配…というイメージを持たれることが多い木造でも、耐火建築物にすることは可能なのか?という点も掘り下げています!
2つの違いについて知りたい方、これから住宅を建てる予定のあるオーナー様にとって役立つ情報となっていますので、是非ご覧ください。
目次
耐火建築物とは
耐火建築物とは、建築基準法にて定められた耐火性能のある材質が建物の主要構造部に用いられた建物のことを指します。
また、延焼の危険性がある窓やドアといった開口部に防火設備の設置などを施していることも耐火建築物としての条件です。
少なくとも火災発生時に建築物の住人・利用者が避難完了するまでは倒壊することなく性能維持が可能で、近隣へ延焼しないよう対策が講じられている建築物が「耐火建築物」として認められます。
参考:建築基準法 第二条九の二
一般的に耐火建築物と呼ばれる建物はRC造の他、鉄骨の軸組をレンガやコンクリートなどで覆ったレンガ造や鉄鋼モルタル造などに当てはまります。
「耐火構造」と「防火構造」
建築基準法では耐火建築物の条件として、「耐火構造であること」が求められています。
「防火構造」という似たような単語もありますが、耐火構造とは以下の通り異なる点があります。
- 耐火構造:壁や床などに一定の耐火性能(火災が終了するまでの間、建築物の倒壊や延焼を防止するために必要な性能)を備えた構造。
- 防火構造:周囲で火災が発生した場合、外壁や軒裏が延焼を抑制するために一定の防火性能を持つような構造であること。
耐火構造の建築物は周囲に燃え広がらないような構造、防火構造は周囲から炎を受けても燃えないようにしている構造と言えます。
防火構造の方が建築にかかるコストは低く建築の自由度も上がりますが、あくまで外で発生した火災による延焼を防ぐ性能しかありません。
そのため、建物の中に炎が入り込んで燃えると建物が倒壊する可能性もあります。
「準耐火建築物」と耐火建築物との違い
準耐火建築物とは耐火建築物の条件を満たしていないものの、「準耐火性能(通常の火災による延焼を抑制するために必要な性能)」を備えた構造の建築物です。
階数が低く延床面積が小さい建物に該当する基準となっており、部位によっては最長1時間火災による倒壊を防ぐことができます。
ただし、耐火建築物のように鎮火後も建物を再利用できるほどの耐性は求められないと考えられています。
主要構造部は建築法で定められた耐火性能のある材質を使う必要があるという点は、耐火建築物と同様です。
建築基準法において耐火建築物と準耐火建築物は、それぞれで部位ごとに異なる耐火性能が求められています。
なお、同じ耐火建築物でも最上階から数えた階数によって求められる耐火性能が異なる場合もあります。
耐火建築物
最上階・階数2~4の階 | 階数5~14の階 | 階数15以上の階 | |
---|---|---|---|
間仕切壁(耐力壁) | 1時間 | 2時間 | 2時間 |
外壁(耐力壁) | 1時間 | 2時間 | 2時間 |
柱 | 1時間 | 2時間 | 3時間 |
床 | 1時間 | 2時間 | 2時間 |
梁 | 1時間 | 2時間 | 3時間 |
屋根 | 30分間 | ||
階段 | 30分間 |
準耐火建築物
(階数指定なし) | |
---|---|
間仕切壁(耐力壁) | 45分間 |
外壁(耐力壁) | 45分間 |
柱 | 45分間 |
床 | 45分間 |
梁 | 45分間 |
屋根 | 30分間 |
階段 | 30分間 |
木造でも耐火建築物にできるの?
鉄やコンクリートとは異なり、火の燃料となりやすい木材。
そんな木材で出来た木造の建築物でも、耐火建築物として建設することは可能です。
なお、建築基準法では大規模な建築物や多数の人が利用する建築物において、火災時に建築物が倒壊しないように防火措置を施さないまま木造で建設することは制限されています。
地域・規模・用途などに応じて、耐火建築物または準耐火建築物として建設しなければならないのです。
木造の耐火建築物には、以下のようなメリットもあります。
- 部材が軽いため狭小地でも重機を使わず建てられる
- 断熱性能に優れている
- 建築コストを抑えられる
- RC造やS造よりも年間の減価償却費を多く計上できる
など
木造で耐火建築物を建設する方法としては、以下の通りです。
①木造耐火に関する告示を用いる
せっこうボードによる木造耐火構造の外壁・間仕切壁の仕様についての告示(平成26年国交省告示第861号)がある他、耐火構造などの構造方法を定める件(平成12年建設省告示第1399号)の一部が平成30年に改正されました。
この改正により告示化された、せっこうボードを用いた木造耐火構造の柱・床・屋根・階段の仕様を用いて建設する方法です。
②主要構造部に木材を用いたメンブレン型耐火構造
木造軸組工法や枠組壁工法にて、構造部材をせっこうボードなどで棒か被覆した「メンブレン型耐火構造」により国交大臣の認定を取得した工法があります。
この技術を用いれば、特殊耐火建築物や防火地域内の共同住宅なども木造耐火建築物として建設することが可能です。
③木質ハイブリッド部材
鉄骨を集成材などの木材の厚板で被覆し、耐火構造としての性能を確保しながら木の質感も出せる部材として「木質ハイブリッド部材」が開発されています。
木質ハイブリッド部材を用いた工法は、国交大臣の認定も受けています。
④被覆型耐火構造(集成材)による耐火建築物
構造用集成材の柱や梁に、せっこうボードなどで防火被覆した耐火構造や部材内部に燃え止り層を設けた耐火構造 といった国交大臣認定の工法を採用する方法です。
⑤耐火性能検証法による木造耐火建築物
耐火性能検証法(平成12年建設省告示第1433号)により天井を高くしたり、大きい空間にすることで火災時に熱がこもりにくくなります。
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住宅の構造を理解して火災に備えよう
火災発生時、建物が倒壊したり周囲へ延焼しないような対策が講じられた「耐火建築物」と「準耐火建築物」。
共同住宅を建てる場合、建築コストの低い木造を選択するオーナー様も少なくないかと思います。
建築基準法改正以降、必要な性能を満たしていれば木造でも耐火建築物として扱うことができるようになりました。
なお、火災に備える手段のひとつとして「火災保険」への加入も挙げられます。
土地購入費や建築費用などの融資を受ける際、火災保険への加入が必須とされる場合がほとんどです。
万が一のリスクにしっかりと備えておきましょう。
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- この記事を書いた人
- 浦野 瞳
- 様々なジャンルで執筆経験があるフリーランスWEBライターです。 執筆時はリサーチにリサーチを重ね、複雑な不動産関係の知識も分かりやすくお伝えしています。 読者の皆様に、「痒い所に手が届く記事」と感じていただけていれば幸いです。 住宅やインテリアの情報に対しては特に関心が強く、情報の正確性を高めるため個人的にも勉強をして知識をつけています。 実際に賃貸暮らしを続ける中での経験・所感も活かし、オーナー様・入居者様どちらの視点も考慮しながら情報を発信いたします!
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