農林水産省と国土交通省が中心となり、木材利用を進めてきました。
木材利用促進のための法律も改正され、今まで木材利用が進まなかった分野でも活用が広がりそうです。
法改正の理由のひとつに、脱炭素社会の実現が挙げられます。
また、国内の森林の状況も背景にあります。
なぜ木材利用を推進するのか、木材利用促進に関係する法律とあわせて説明していきます。
目次
国が木材の利用を進める理由とは?森林伐採やウッドショックは問題にならない?
森林伐採と聞くと、環境破壊をイメージする方は少なくないと思います。
ウッドショックで木を入手しにくいのに、木材の利用を推進して良いのか疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。
結論から申し上げますと、日本の木材利用が増えるほど、国内の森林を守ることにつながります。
また、国産の木材の価格高騰は、木が少ないからではなく、他の要因があります。
ただし、日本の木材利用を増やすことがウッドショックの引き金になるとは考えにくくても、違う課題は見えてきます。
国産木材の利用促進が環境破壊ではなく環境にやさしい理由を解説します。
ウッドショックの原因、日本の流通量が少ない要因と解決策についても補足します。
国内の木材の使用量を増やすことが森林保護になる!
人工林(スギ・ヒノキなど人の手で植えられた森林)は、そのままにしておくより、手入れをする方が森林の良さを活かせます。
- 木の間に日光が差し込まないと下草が生えず土壌が失われる(土砂崩れの原因に)
- 高齢の木ばかりになると二酸化炭素の吸収量が減る
上記の理由から、木を植えたら間伐などの手入れが重要です。
成長した木を切って活用することが、豊かな森林を維持します。
ウッドショックの原因をなくせば木材利用が増えて森林保護に!
ウッドショックの原因は、欧米での需要の高まりや運搬コストの上昇が挙げられます。
国内の自給率の低さも、価格上昇の引き金になっています。
しかし、国内の木は豊富と言われています。
流通量が少ない理由は、働き手が少ないからです。
人材不足
↓
需要に応えられるほど供給できない
↓
木材が十分に出回らないために価格高騰という悪循環に。
間伐などこまめな管理に、人材が欠かせません。
- 短時間勤務の導入といった労働環境の整備
- IT技術・設備の導入で効率化
など
上記のような取り組みで安定供給できる環境が整えば、国内の木材の使用量が増えると考えられます。
国産の木材を使うことは、国内の森林を守ることにつながります。
▼ウッドショックとはなにか?振り返る
脱炭酸社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律とは
通称「都市(まち)の木造化推進法」と呼ばれています。
平成22年に制定した「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を改正したものです。
- 木材の利用促進の目的
- 取り組みの進め方
- 建築に適した木材の安定的な供給
- 都道府県・市町村の方針作成
など
上記を以下の6つの項目にまとめたものが、基本方針です。
- 建築物における木材の利用の促進の意義及び基本的方向
- 建築物における木材の利用の促進のための施策に関する 基本的事項
- 国が整備する公共建築物における木材の利用の目標
- 基本方針に基づき各省各庁の長が定める公共建築物における 木材の利用の促進のための計画に関する基本的事項
- 建築用木材の適切かつ安定的な供給の確保に関する基本的事項
- その他建築物における木材の利用の促進に関する重要事項
法改正の背景
公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律制定以降、農林水産省と国土交通省は、木材の利用を進めてきました。
公共建築物の利用率は床面積ベースで、平成22年の8.3%から令和元年度は13.8%に増えました。
民間の建築物は、低層住宅では木材利用が広がっているものの、中高層建築物の利用率は低いままです。
戦後植えられた国内の森林資源は豊富で、木材利用に適したタイミングを迎えています。
耐震性能・耐火性能技術の向上など、木材利用の可能性が広がっています。
森林の適切な管理などで森林の二酸化炭素吸収作用を強めれば、脱炭素社会の実現を期待できます。
あらゆる状況を踏まえると、法律制定から10年経過したタイミングで、民間を含む建築物にも木材利用が広がる法改正が必要と考えられるようになりました。
法改正は、これまで木材の利用が進んでいなかった建築物にも利用を進める取り組みのひとつと言えます。
改正で何が変わった?
- 法律の名称
- 木材利用の促進に関する基本理念の新設
- 林業・木材産業事業者は木材の安定供給に努める旨の追加
- 木材利用促進の日(10月8日)と木材利用促進月間(10月)制定
- 建築物木材利用促進協会制度の創設
- 木材利用促進本部の設置
など
いくつか補足します。
法律の名称
「公共建築物等」が「建築物等」と公共建築物以外にも適用されやすくなりました。
「脱炭酸社会の実現に資する」という、法律の目的も追加されています。
木材利用の促進に関する基本理念の新設
以下のような条文が加わりました。
第3条
木材の利用の促進は、地球温暖化を防止することが人類共通の課題であり、そのための脱炭素社会の実現が我が国の緊要な課題となっていることに鑑み、森林における造林、保育及び伐採、木材の製造、 建築物等における木材の利用並びに森林における伐採後の造林という循環が安定的かつ持続的に行われる ことにより、森林による二酸化炭素の吸収作用の保全及び強化が十分に図られることを旨として行われな ければならない。
2木材の利用の促進は、製造過程における多量の二酸化炭素の排出等による環境への負荷の程度が高い資 材又は化石資源(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭をいう。以下同じ。)に代替して、森林から再 生産することが可能である木材を利用することにより、二酸化炭素の排出の抑制その他の環境への負荷の 低減が図られることを旨として行われなければならない。
3木材の利用の促進は、森林の有する国土の保全、水源の涵養その他の多面的機能が持続的に発揮される とともに、林業及び木材産業の持続的かつ健全な発展を通じて山村その他の地域の経済の活性化に資することを旨として行われなければならない。
脱 炭 素 社 会 の 実 現 に 資 す る 等 の た め の 建 築 物 等 に お け る 木 材 の 利 用 の 促
建築物木材利用促進協会制度の創設
建築物の木材利用促進のため、事業者と国・地方公共団体が協定を結び、木材利用に取り組む制度です。
地域の木材利用の促進が期待されます。
木材利用促進本部の設置
木材利用促進本部は、基本方針の策定・実施などを担当します。
下記の大臣で構成されます。
- 農林水産大臣※本部長
- 総務大臣
- 文科大臣
- 経産大臣
- 国交大臣
- 環境大臣
など
木材利用は環境保護の一環!
元気な状態の森林を守るには、適切な管理が欠かせません。
間伐材を利用すれば、切られた木が無駄になりません。
戦後に植えられた木が豊富で、間伐がさらに必要な状況です。
技術の発展で木材を利用できる建築物の可能性も広がっています。
国や自治体が林業の人手不足への対策も進めて解消されれば、木材の供給量が安定し、利用がより増えるのではと思います。
太陽光パネルといった新しい設備を無理に導入しなくても、今ある国内の豊かな自然を守ることで、脱炭素社会に向かっていくのではないでしょうか。
- この記事を書いた人
- 星脇 まなみ
- 2016年からフリーランスでライターとして活動しています。 主に住まい・暮らし・生活に関する記事を制作してきました。 住みやすい街や今後熱くなりそうな街や都市開発、資産運用への関心が強いです。 住宅設備で1番好きなのはトイレ。外出先でもメーカーやデザイン、使い勝手が気になってしまいます。
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