木造の高層ビル建築が可能に!日本の事例と木造建築のメリット・課題とは

海外で木造ビルが増えています。

ストックホルムでは34階建てのマンションが計画されています。

日本にも何棟か木造の高層ビルが建てられはじめています。

木造というと低層建築物のイメージが強く、なぜ高層ビルでも使えるようになったか気になる方は多いと思います。

そこで、高層の木造建築物が可能になったと思われる理由を調べてみました。

木造建築物のメリット、高層ビルの事例、高層の木造ビルが難しいとされる日本ならではの課題もあわせて紹介します。

高層の木造建築物はなぜ建てられるように?

中高層の建築を可能にする木製の建材が開発されているためです。

以下は国土交通大臣の認定を受けたものです。

  • メンブレン型

:耐火性能のある石膏ボードで覆われた木材。耐火時間は3時間以下

  • 燃え止まり型

:燃えることを想定した分の厚みを持たせた木材と、不燃処理された木材などを組み合わせたもの。耐火時間は2時間以下

  • 木質ハイブリッド型

:鉄骨で覆われた木材。耐火時間は2時間以下

火に耐えられる時間で、何階建ての木造建築物を建てられるかが決まります。

耐火時間 上から数えた階数
間仕切り壁・外壁・床・柱・梁が1時間耐火 4階まで
2時間耐火の床 階数制限なし
間仕切り壁・外壁が2時間耐火 柱・梁が2時間耐火 14階まで
柱・梁が3時間耐火 20階まで

木造建築物のメリット

  • 他の工法と比較すると材料調達から輸送、加工、建築中の二酸化炭素排出量を減らせる
  • 断熱性が高い
  • 結露・ダニ・カビが出にくい

断熱性が高い理由は、木造は熱伝導率が低いためです。

調湿性の高さは結露などを出来にくくします。

地域材を利用すると、地域経済の活性化への貢献を期待できます。

地域で木材を生産・加工する事業者に仕事を依頼することになるので、林業関連の事業者の発注増につながるためです。

 

ただし、地域材は発注から納品までの期間が長いことを念頭に置いて計画を立てることがポイントになります。

規模の大きい工事となると、調達が大変です。

一般に流通している木材でも、使用量が増えると調達は難しいので、地域材はなおさらです。

 

基本計画の時点で木の体積などを調査し、実施設計時には数量を見込んだ伐採、施工図の段階では加工・納品準備までしておくことが求められます。

分離発注」はスケジュールの問題を解決する手段のひとつです。

※分離発注:施工主が木材調達から行うのでなく、発注者が木材調達して施工主に提供すること

日本で高層の木造建築物が難しいと言われる理由

地震が多いためです。

骨組みの接合部は、外部から力が加わっても変形しにくいほどの強度が求められます。

コスト、遮音性や現場の雨水対策なども課題に挙げられます。

▼関連記事:地震に必要な性能について詳しくはこちら

国内の木造高層ビルの事例

既に完成した建築物と、計画中のビルについて紹介します。

横浜市の純木造ビル

2022年3月、横浜に地上11階建て高さ約44mの純木造の高層ビルが誕生しました。

建設会社は大林組です。

 

柱・梁・壁・床などの構造部も木でつくられています。

同規模の鉄骨造の建物を建築する場合よりコストは高くなったものの、1,700トンの二酸化炭素を削減できたとのことです。

 

火災・地震・雨対策も考えたビルになっています。

火災対策 地震対策 雨対策
  • 主要構造部は部位ごとに1~3時間の耐火試験をクリアした耐火建築物
  • 構造体の木材の上に燃焼を止める層と燃焼の進みを遅らせる層を設ける
  • 敷地内火気厳禁、調理は電気機器のみ
  • 免震構造
  • 大林組が開発した柱と梁を一体にする構造で、外からの力に耐えられる接合部に
  • 屋根、バルコニーの高い排水能力
  • 1階外周部に集中豪雨を想定した排水ポンプ
  • 建物の表面に防水の保護層

木造でも鉄骨造と同じレベルの耐火試験に合格しないと、耐火建築物と認められません。

通常の大地震で柱や梁の損傷・変形して戻らないなどがない設計です。

地域の過去最大降雨量をまかなえるほどの排水能力を持つのも特徴です。

木材は他の建材より保管・湿度管理が難しく、雨に濡れることによる膨らみ・反りなどへの対策も必要です。

そこで、養生で膨らみ・反りが起こりにくくしました。

大林組は海外の木造高層ビル建築も受注しています。

2022年8月、オーストラリアの木造ハイブリッド構造の複合施設を受注しました。

高さ182m、地上39階建てと世界最高の木造ビルとなります。

二酸化炭素排出量は通常の50%削減を目標としています。

2028年度完成予定の高さ100mの木造ビル

東京海上ホールディングスは、丸の内の本店ビルを高さ100mの木造ビルに建て替えることを発表しました。

世界最大規模の木材使用量となるようです。

国産木材を多く使用することも発表されています。

二酸化炭素排出量は3割減の見込みです。

大規模な木造建築物を増やすため課題解決に向けてできそうなこと

福島県の資料からコストを抑えるポイントが分かります。

  • できる限り一般に流通していて加工が不要な木材を使う秋田県の木造の小中学校で、コスト削減方法として取り組まれました。
  • 単純な工法
    • 組み立てが複雑でない
    • 短期間でできる
    • 特定のスキル・知識のある職人しかできない工法にしない など
  • 他の構造と組み合わせる(たとえば木造とRC造のハイブリッドなど)

定期的な塗替え・張替えを簡単にするには、足場を組まず塗装できるなどの設計が求められます。

一方、木造は他の建材より軽いので、杭工事に関するコストは抑えられる傾向です。

総工費を抑えるには、建築・維持管理だけではなく、他の種類の工事もあわせてコストを比較し、調整することがポイントです。

補助金の活用もひとつの手です。

たとえば東京都は、中・大規模建築物の木造木質化に補助金を支給しています。

補助金額は設計工事で上限5,000万円、建築工事で上限5億円です。

中・大規模建築物の木造木質化支援事業 – 東京都農林水産振興財団ホームページ

 

三井ホームは独自開発した遮音性の高い床を採用し、中高層の木造住宅を建築しています。

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森林が豊かな日本なら木造建築を建てやすいだろう

木造建築は森林保護にもつながります。

国は木材の利用促進のために法改正を実施するほどです。

 

日本は木が豊富ですが、人材不足などで供給が追いついていません。

故に、木材の供給を増やせる体制が整えば、木造を取り入れた建築物は増えそうです。

他の工法と組み合わせる、構造部は鉄骨・コンクリートでも表面は木材にするといった木造建築からであれば、事業者も取り組みやすいのではないでしょうか。

この記事を書いた人
星脇 まなみ
2016年からフリーランスでライターとして活動しています。 主に住まい・暮らし・生活に関する記事を制作してきました。 住みやすい街や今後熱くなりそうな街や都市開発、資産運用への関心が強いです。 住宅設備で1番好きなのはトイレ。外出先でもメーカーやデザイン、使い勝手が気になってしまいます。
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